Laboratory研究室紹介

1.沿革

  • 2004年6月
    東京大学医学部附属病院内の22世紀医療センターに、協力講座:胸部外科(高本眞一教授)の下、株式会社メディネットの寄付講座として免疫細胞治療学講座が設置される。
  • 2006年9月
    東京大学医学部附属病院 中央診療棟2の9階に外来診療スペース、細胞加工施設(Cell Processing center)、実験スペースの3要素を兼ね備えた研究室が完成
  • 2007年2月
    がんに対する免疫細胞治療の外来診療を開始
  • 2009年4月~
    肝胆膵外科(國土典宏教授)、2010年4月心臓外科(小野稔教授)、2012年10月呼吸器外科(中島淳教授)の3講座を親講座として活動
  • 2017年10月
    理化学研究所・医科学イノベーションハブ推進プログラム・がん免疫データ多層統合ユニットプロジェクトスタート
  • 2019年5月31日
    株式会社メディネットによる寄付講座は3期15年の設置期間を満了
  • 2019年5月
    中央診療棟II9階から、分子ライフイノベーション棟6階へ研究室を移転
  • 2019年6月1日
    タカラバイオ株式会社の寄付講座として、心臓外科(小野稔教授)、呼吸器外科(中島淳教授)、泌尿器科(久米春喜教授)の3講座を協力講座の下で、腫瘍免疫研究とがん免疫治療法の開発を目的に活動を継続

「免疫細胞治療学講座」は、東京大学医学部附属病院内に産学連携の拠点、及びトランスレーショナルリサーチを推進する組織として設置された22世紀医療センター内に、がんに対する免疫細胞治療の基礎および臨床研究を実施し、がん治療における本治療技術の役割を明確にすることを目的として設置されました。

がん治療における免疫治療が認知される前の時代、細胞治療や再生医療に関する法律が未整備な時代に、寄付企業の株式会社メディネットの協力を得て講座内に免疫細胞治療専用のCell Processing Centerを設置し、自ら高い規範・基準を設定して、がん免疫細胞治療の科学的なエビデンスを構築するために多くの臨床研究を実施しました。

2019年5月には、株式会社メディネットによる3期15年間にわたる寄付講座の設置が満了し、6月からは、タカラバイオ株式会社による寄付講座として再出発いたします。寄付講座の設置場所も、中央診療棟IIから分子ライフイノベーション棟に移転しました。多くの診療科と共同研究を実施し、得られた臨床検体を最先端の技術で解析することで、分子免疫学に基づいた腫瘍免疫学の研究と、新しいがん免疫治療法の開発に従事しています。膨大な臨床データを統合して、一人ひとりの患者に最適な治療法を提供できるシステムを構築することを目的に理化学研究所のプロジェクトも開始しました。
がん治療における免疫治療の重要性が増す中、最先端の腫瘍免疫学の基礎に基づいた、がん免疫治療法の研究開発に取り組んでいます。

2.現在の研究室(分子ライフイノベーション棟6階)

分子ライフイノベーション棟

1)P2実験室(607号室)

研究室には、毎日手術で採取された検体や、患者さんの血液が届きます。607号室には安全キャビネット4台を設置し、臨床検体を処理しています。

P2実験室(607号室)の内部

腫瘍からリンパ球を分離してフローサイトメーターで解析したり、腫瘍からDNA/RNAを抽出してNGS解析に用います。

検体の解析のためフローサイトメーター3台がフル稼働です。

P2実験室(607号室)の内部

免疫ゲノム解析のため、サーバー室でNGSデータを解析しています。

P2実験室(607号室)の内部

2)P1実験室(608号室)

608号室では、セルソーターを用いた細胞の分離や、iCELL8シングルセル解析装置を用いてより詳細な解析を行います。

P1実験室(608号室)の内部

たくさんの貴重な検体を保管するためディープフリーザーと液体窒素のタンクが増える一方です。

P1実験室(608号室)の内部

3)居室(609)号室

教員2名、特任研究員2名、技術補佐員3名、大学院生4名の11名が同じ居室内に詰め込まれています。コロナ感染対策で机を一つ置きに、あるいは、本棚を挟んでできるだけ密にならないように使用中です。

居室(609)号室の内部

3.中央診療棟II 9階時代の(旧)免疫細胞治療学講座の施設に関して

1)研究室の設計コンセプト

施設の設計段階から、「ベンチからベッドサイドへ」の臨床研究を行うために必要な要素として、

  1. ①基礎研究と前臨床研究を行う研究部門
  2. ②細胞調製部門
  3. ③がん患者の診療を行う外来診療部門

の3つの部門を合わせたがんの免疫細胞治療専門講座を作り上げ、トランスレーショナルリサーチを実践するためのモデル講座として活動しました。

研究室の設計

安全で信頼性の高い治療用細胞を供給するために、適切なハード面の構造設備基準に則った施設と、その取り扱いを規制するソフト面の基準に則った、一貫した品質保証システムの構築が不可欠です。免疫細胞治療学講座では株式会社メディネットから派遣された専門技術職員がCPC(Cell Processing Center)の運営を担うことにより、それを可能にしています。免疫細胞治療に用いるために加工された細胞は、各患者さん本人の自己由来の細胞であるため、現行薬事法への適応は困難ですが、高い倫理観に基づいた自主的な取り組みでGMPに準拠して細胞を調製し、質の高い臨床研究を実施しています。
現在、倫理委員会または臨床試験審査委員会で承認されたプロトコールに基づき、UMIN臨床研究登録システムに登録し、東京大学医学部附属病院の各診療科と共同で臨床研究を実施しています。2009年度から肝胆膵外科(國土典宏教授)2010年度から心臓外科(小野稔教授)の2つの講座を親講座として活動しています。
2019年6月からは、新しく分子ライフイノベーション棟に移転し、より一層腫瘍免疫の研究とがん免疫治療法の研究開発に取り組んでいます。

2)細胞調製部門

細胞調製部門は、実際に患者さんの免疫細胞治療に用いられるエフェクター細胞や樹状細胞(DC)を調製、加工する施設です。
免疫細胞治療は、体外で免疫細胞を培養・増殖させ、機能を強化したうえで、体内へ戻すという工程があるため、その際に細菌やウイルスなど免疫細胞以外の異物が混ざってしまうと大変危険です。これを防ぐためには、無菌医薬品製造工場と同等レベルの清浄度管理と安全基準によって運営される細胞加工施設(CPC:Cell Processing Center)が不可欠となります。また、細胞加工は、特別にトレーニングされた専門の技術者によって行われており、安定的で再現性の高い加工細胞を得ることが可能です。

3)構造・設備

研究室の構造・設備
エリアマップ
区域 作業内容 清浄度
日本薬局方規格 ISO規格 米国連邦規格
FED-STD-209D
管理区域 清浄区域A バイオハザード対策用
安全キャビネット内
開放系調製作業 グレードA クラス5 クラス
100
清浄区域B 培養室
無菌検査室
着衣室
エアロック
閉鎖系調製作業 グレードB クラス7 クラス
10,000
清浄区域C 脱衣室
総合準備室
受入搬出室
準備室
洗浄室
P/R
更衣室
血液受領
加工細胞の搬出
細胞・組織の保管
資材の保管
更衣
グレードD クラス8 クラス
1,000,000
非管理区域 前室 入室
  • 研究室の設備
    総合準備室
  • 研究室の設備
    準備室
  • 研究室の設備
    培養室
  • 研究室の設備
    検査室
  • 空気処理システム

空気処理システムは全外気空調方式を採用し、培養室へ供給したクリーンエアーをすべてHEPAフィルターで処理した後に外気排出しています。また、培養室、無菌検査室、そこに通じる各部屋は、クリーンエアーを天井部から給気し、床近傍から排気するダウンフロー設計とすることで気流による巻上げ防止を行い、高い空気清浄度と微生物制御性を行うことが可能です。
細胞調製部門は、細胞加工を行う培養室4部屋、無菌検査室1部屋を中心に、GMPハード基準(薬局等構造設備 規則第10条及びGMP省令第9条)に適合した施設であり、エリアマップからもわかるように完全な部屋毎の独立性が確保されています。
また、無菌操作を行う部屋(培養室・無菌検査室)には専用の前室(AL:エアロック)を設置し、この前室を通じてのみ無菌作業室内に出入りできるような構造となっています。これはクリーンルーム内の清浄度の維持や外部からの交差汚染の防止のために、クリーンルームとALの間に差圧を設定し、外部への汚染拡大を防止することが可能です。
また、培養室、無菌検査室への動線はOne-Way方式となっており、培養する細胞の種類毎に部屋を区別できるように設計されております。これにより混同・汚染のリスクを最小限に抑えることが可能です。

  • 培養室・通路
  • 気流の流れ

清浄区域D(クラス100,000)には一次ガウニングを着用して作業を行います。

  • 一次ガウニングを着用しての作業
  • 一次ガウニングを着用しての作業
  • 一次ガウニングを着用しての作業
  • 一次ガウニングを着用しての作業

4)培養室

滅菌された無塵衣

培養室・無菌検査室(清浄区域B:クラス10,000)のエリアには滅菌された無塵衣を着用しなければ入室できず、実際に無菌操作を行うバイオハザード対策用安全キャビネット内は、清浄区域A(クラス100)の清浄度で厳密に管理されており、無菌医薬品を製造する部屋と同等レベルの管理がなされています。
細胞加工・品質管理に係る一連のプロセスは標準作業手順書(SOP;Standard Operation Process)を作成し、いつでも閲覧可能な状態で保管しています。また日々の作業ではこの手順を確認しながら作業を行っています。

標準作業手順書(SOP;Standard Operation Process)を確認しながらの作業

また、治療用に加工している細胞は、患者取り違えや交差汚染防止を目的として検体毎のディスポーザブル資材の使用、1ブース1検体での検体取扱いに加え、2次元バーコード検体認識システムを用いて確実に識別管理しています。

  • 治療用に加工している細胞を確実に識別管理
  • 治療用に加工している細胞を確実に識別管理
  • 治療用に加工している細胞を確実に識別管理
  • 使用する機器・機材
  • 使用する機器・機材

使用する機器・機材は定期的にバリデーションが実施されると共に、稼動状態をコンピューターによる一元管理システムで24時間リアルタイムに監視しており、治療用に用いられる細胞を培養しているCO2インキュベータや細胞を保管しているフリーザーの庫内環境に異常が発生すれば休日や夜間でも管理者へ警報が発信される仕組みになっています。
また、設備・バイオハザード対策用キャビネット・培養器・フリーザーなどを含む重要機器類については非常用電源でバックアップしています。

5)無菌検査室

原料(血液)および製造(細胞加工)の工程毎にサンプリングされた検体を用い、無菌試験検査(液体培地、平板寒天培地)、マイコプラズマ検査などを実施し、治療用細胞の品質管理を厳密に行っています。

  • 無菌検査室の内部
  • 使用する機器・機材

最終加工細胞の品質管理についても、細胞数検査、純度試験、生細胞率検査、活性化マーカー、無菌試験検査(液体培地、平板寒天培地)、 マイコプラズマ検査、エンドトキシン検査を実施し、これらの検査項目を合格した加工細胞が患者さんの免疫細胞治療に用いられます。

現在、中央診療棟9階のCPCは、東京大学医学部附属病院の共通のCPCとして活用されています。

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