Tumor 
Immunity
腫瘍免疫の基礎知識(垣見の腫瘍免疫学)

免疫細胞治療学講座で実施している研究のベースとなる腫瘍免疫に関する基礎知識、考え方を概説します。

10.結語

個々の患者の体内・腫瘍内で起こっている免疫応答を把握し、がん免疫応答の特性を生かしたがん治療(併用治療)に結び付けることが期待される腫瘍に対する免疫が抑制されているステップや要因、その組み合わせは多種多様であり、一人ひとりに向けた個別化免疫制御法が求められている。チェックポイント阻害剤単剤で高い抗腫瘍効果が得られる患者もいるが、限定的である。一方で、チェックポイント阻害剤は従来の抗がん剤と比較して非常に高価であり、自己免疫反応に関連した重篤な副作用も報告されており、組み合わせるほど副作用の頻度も上昇すると言われている。どのような患者に対してどのような治療を併用すべきかを合理的に選択する手法を確立することは、今取り組むべき重要な課題である。チェックポイント阻害剤の適応評価のみならず、最適な治療を考える上では、がん免疫応答に関するシステム全体を評価することが必要であり、多角的・複合的な評価法そのものがバイオマーカーとして活用される時代が来ると予測される。そしてこれからのがん免疫治療は、個別の患者にそれぞれ最適な免疫制御法を併用する複合的免疫治療であることが求められている。

免疫チェックポイント阻害剤の登場による著しいがん免疫治療の進歩に合わせて、次世代シーケンサーをはじめとしたゲノム研究の技術革新が腫瘍免疫研究に押し寄せてきた。我々は、詳細な観察をもとに、仮説とその検証を積み重ねて現在の腫瘍免疫学を学んできた。一方、バイオインフォマティクスやコンピューターサイエンスを駆使した解析では、網羅的な情報を先入観にとらわれることなく回答を探索する。両者が一致した時、はじめて抗腫瘍免疫応答の評価に確信を持つことが可能になる。まさにこの両者を融合する新しい腫瘍免疫研究の確立が求められている。

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