Tumor
Immunity腫瘍免疫の基礎知識(垣見の腫瘍免疫学)
免疫細胞治療学講座で実施している研究のベースとなる腫瘍免疫に関する基礎知識、考え方を概説します。
2.がん抗原
がん細胞は、正常細胞に存在しないタンパクを発現します。そのようながん細胞特異的タンパク由来のペプチドも、がん細胞表面にMHCクラスI分子と結合して提示されています。腫瘍特異的T細胞は、このわずかな違いを認識して、がん細胞と正常細胞を識別することが可能です。
免疫系が正常細胞とがん細胞を識別する際の標的分子が、がん抗原であり、がん細胞に特異的または過剰に発現するタンパクです。腫瘍関連抗原は組織の分化に伴い発生する分化抗原、正常細胞では胎児成長期にのみ発現する胎生蛋白、糖鎖や糖脂質が関連する糖蛋白、糖脂質、糖鎖抗原、また、がん細胞にのみ過剰に発現する過剰発現蛋白などが知られている。
正常細胞に存在するたんぱく質由来のペプチドに対しては、中枢性(胸腺)および末梢性の免疫寛容が成立しており、正常細胞は免疫系からの攻撃を免れている。そのため、腫瘍関連抗原のように、がん細胞に加えて、正常組織にも発現する抗原に対しては、強い免疫反応を誘導することが困難であることが多い。がん精巣抗原は、正常組織では通常の免疫システムとは隔離された精巣等の組織でのみ発現する。腫瘍特異的体細胞遺伝子変異によりアミノ酸置換が行われて発生する蛋白は、ネオアンチゲンと呼ばれ腫瘍特異的抗原であり、これらの抗原は、中枢性の免疫寛容を免れており、強い免疫応答の誘導が期待できる。
抗原を患者間の共通性で分類すると複数の患者に共通してみられる共通抗原と、個々の患者に固有の抗原に分類される。これまでその汎用性の高さから、共通抗原をターゲットとしたがんワクチン開発が精力的に行われてきた。固有抗原は従来のがん抗原探索方法では探索が難しく、抗原を特定できたとしてもその患者個人に対する適応に限定されることから、分子標的薬治療や免疫治療開発のターゲットとしては注目されていなかった。しかし、近年次世代シーケンサー(NGS)の登場で個々の患者の遺伝子変異の全容が解析可能になり、固有抗原を探索し、個々の患者に対する介入(個別化医療)も不可能ではなくなってきたことから、固有抗原であるネオアンチゲンを標的としたがんワクチン治療が一段と注目を集めている。